小ボケを見つけるコツ・・ まず早期に気づくことが重要
               
 最も早期の認知症(小ボケ)を正確に見つけさえすれば、そして、そこで専門家に相談されるなら、進行を防ぐ、脳機能を回復させることは難しくはない。軽度→中度→重度と進むので、重度までにはまだ、1年以上余裕があるので、ここで何かをやり出す必要があるのだ。

 しかし、そんな人に限って、無愛想、無口、出不精ときているから、「何を考えているのやら、何がかって、何が分からないのやら」が第三者に分かりにくい。普段、細やかな神経で観察してくれている妻が居さえすれば、小ボケの初めに気づいて居ることが多いが、ボケやすい男性には感性の乏しい妻が控えているのが常だから、そこで見つけ損なう危険性は高い。

 ただ、折角見つけても、病院に連れていこうとして、本人がガンコ、ヘンクツ、独りよがりと来ているから、ここにまた、障壁があるのだ。
    
典型的な教師タイプの K さん。66才、男性、中学校長の例を見てみよう。

 定年までは謹厳実直、真面目で、型にはまった生活を続けてきた。冗談も言わず、笑顔も見せず、子供たちと遊ぶことも全く無かった。同じ時間に早朝出勤し、同じ道を歩いて通った。背広もネクタイも暗い沈んだ色のいつも同じタイプ。カバンは若い頃からの同じ黒革のカバン。近所の人に会っても親しげに挨拶することはなかった。

 65才で、引退し、自宅にばかり居るようになると、急に何もやることがなくなってしまった。誰も誘いに来てくれない。話題も乏しいし、何の遊びも趣味も出来ないし、思いやりもないから、なるべくなら、誰も近づきたくないのだ。

 そこで、一人で近くの畑の周囲をトボトボと散歩には出たが、15分くらいで戻ってくる。そんな日が半年経ち、一年経つともうハッキリと違った印象の人間になっていた。
 妻から見れば、覇気がなくなり、目がドンヨリとして、背は前屈み、手を振らずに小股でトボトボと歩く。畑の作物、トマトやキュウリや西瓜などにも殆ど関心を示さない。勿論、美しいヒガンバナが咲いても、萩の花が咲いても見向こうともしない。

 自宅では朝御飯を食べると差し当たってやることがないので、新聞を持って、居間のテレビの前に陣取る。テレビを付けて、新聞を読み始めると間もなく、眠くなる。すんなりとソファーに寄りかかって、スヤスヤと鼾を書き始める。すると夕方はすぐに来る。
 
 引退から1年半が経ったある日、妻が「朝御飯がすんだら、玄関脇の金木犀の枝を少し切ってくれませんか。」と頼んでみた。 K さんは「分かった!」とやり始めたが、あちこちの枝をバラバラにすきなように切ってみただけで、形を整えるなどとは考えなかったらしい。まるで、トラ刈りの頭であった。また、別の日、「庭の雑草が伸びたので、少しむしってくれませんか?」と頼んでみた。「よし、きた」と返事は良かったが、雑草の間にあった、花の苗も小さい野菜もみんな抜かれてしまった。
もう、これは完全な小ボケ(軽度認知症)である。

小ボケの症状を並べてみよう;

 社会に向かっての仕事が一切ダメになる。銀行でのお金の出し,入れ。税金、水道料金の払い込み、ゴミ出しのやり方。お買い物、老人会での雑用の手伝いなど。
 老人会に出して、簡単な集金でも手伝ってもらうと5分でその異常さは分かる。三つ以上の用件を同時に並行して捌けなくなっているのだ。
 特に重要なことは、状況に応じて、自分が今、何をすべきかがよく分からず、誰かが指示を出してくれなければ、ボンヤリと待っている状態になる。これを、「指示待ち人」と呼び、軽度認知症の最大の特徴となる。 

 軽度レベルに特有な症状群は次の10項目である。

 1)一日や一週間の計画が自分で立てられない。
 2)機転がきかず、仕事がテキパキと片付けられない。
 3)反応が遅く、動作がもたもたしている。
 4)同じことを繰り返し話したり、尋ねたりする。
 5)無表情・無   感動の傾向がみられる。
 6)ぼんやりしていることが多い。
 7)生き甲斐がない。
 8)根気が続かない。
 9)発想が乏しく、画一的になる。
10)相手の意見を聞かない。
 
 これらの10項目の中、四つにマルが付いたらまず、軽度認知症が起こっていると考えて差し支えがないだろう。

違った方面から見た具体的な特徴をいくつか挙げてみよう。

○遠くても近くても、旅行に出ようとしない。自分で計画して旅行へ出なくなった ら、数年内にハッキリ認知症へ移行するだろう。

○一般に未知の國、アフリカや南米などに関心を示さない。日本人がよく旅行するアフリカの國を5つ挙 げて下さい、の答が難しい。

○季節の特徴に鈍感になる。今、コスモスがどこに咲いていて、ヒガンバナはどこへ行けば沢山見られ るか、など。

 簡潔に云えば、(1)70才以上の高齢者で、日々の散歩、ラジオ体操をしていない人、(2)仲間と楽しむ趣味・遊びを週2−3回やっていない人は、まず、何らかの認知症が起こっていると考えるべきである。